『ハリー・ポッターと賢者の石』に登場する賢者の石は、錬金術師ニコラス・フラメルが作り出したものとされています。フラメルは作中だけの人物ではなく、14〜15世紀のパリに実在した人物です。そして、彼が1407年に建てた家が、パリ3区のモンモランシー通り51番地に今も残っています。
パリ最古の石造りの家とされるこの建物は、現在はレストラン「オーベルジュ・ニコラス・フラメル」として営業中。映画『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』でフラメルの自宅が登場する通りの名前の由来にもなった、ファンなら一度は訪れたい「ゆかりの地」です。
なお、この建物自体が映画の撮影に使われたわけではありません。映画のパリの街並みやフラメルの家は、イギリスのスタジオに組まれたセットで撮影されています。この記事では「撮影地」ではなく、作中の舞台のモデルとなった実在の場所として紹介します。
実在のニコラス・フラメルと賢者の石伝説
ニコラス・フラメル(1330年頃〜1418年)は、パリで写本の制作・販売を手がけた裕福な商人でした。
妻ペレネルとともに、教会や貧しい人々への寄付を熱心に行った篤志家としても知られています。フラメル自身が錬金術師だったという確かな記録はなく、「賢者の石を発見し、鉛を金に変え、不老不死になった」という伝説は、彼の死後に広まったものです。富を築いた理由を説明する物語として、17世紀以降に錬金術の伝説が結びつけられていきました。
モンモランシー通りの家は、妻ペレネルの死(1397年)の後にフラメルが建てたもので、1407年に完成しました。ただし、フラメル本人がここに住んだわけではありません。1階は店舗として貸し出し、上階は貧しい人々に無料で住まわせるための、いわば救貧の家でした。住人はその代わりに、朝と夕に祈りを捧げることが条件だったと伝えられています。
ちなみに、フラメルの墓石はパリのクリュニー美術館(中世美術館)に収蔵されています。また、シャトレ駅の近くには、フラメルと妻ペレネルの名前を冠した「ニコラ・フラメル通り」と「ペレネル通り」が交差する場所もあり、パリの街歩きの中で彼の足跡をたどれます。
作中のニコラス・フラメル
『賢者の石』での言及
原作『ハリー・ポッターと賢者の石』では、ハリーたちが図書室で調べものをする場面でフラメルの名前が登場します。
知られている限り唯一の賢者の石の製作者で、ダンブルドアと共同研究をした錬金術師。昨年665歳の誕生日を祝ったばかりで、妻ペレネル(658歳)とともに静かな引退生活を送っている、と紹介されています。
命の水で600年以上を生きてきた人物という設定は、死後に生まれた「不死の錬金術師」という実在の伝説が下敷きになっています。
『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』での登場
映画『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』(2018年)では、フラメルがついに映像作品に登場しました。演じたのはブロンティス・ホドロフスキーです。
舞台は1927年のパリで、フラメルは約600歳。ダンブルドアから住所を託されたニュートとジェイコブが、セーフハウスとしてモンモランシー通りのフラメルの家を訪ねます。家中には錬金術の器具が並び、フラメルは水晶のような玉でグリンデルバルドの集会の様子を映し出して、二人に危機を知らせます。物語の終盤では、ペール・ラシェーズ墓地の集会に駆けつけ、黒い炎を封じ込める対抗呪文に加わる活躍を見せます。
繰り返しになりますが、映画に映るフラメルの家やパリの街並みは、イギリスのリーブスデン・スタジオに作られたセットです。実在のモンモランシー通りの家で撮影されたわけではありません。それでも、作中の住所と同じ通りに、モデルとなった本人の家が600年以上も残っているという点が、この場所の特別なところです。
建物のみどころ
外観と銘文
通りに面した石造りのファサードは、1911年に歴史的記念建造物に指定されています。
1階の上部には中世フランス語の銘文が刻まれていて、「1407年に建てられたこの家の住人は、毎日、主の祈りとアヴェ・マリアを唱え、亡くなった貧しい罪人のために祈るべし」という趣旨の内容が読み取れます。救貧の家だった成り立ちを物語る一文です。柱には音楽を奏でる天使などの彫刻や、フラメルのイニシャルとされる文字も刻まれています。外観は通年いつでも通りから見学できるので、まずはこの銘文と彫刻を探してみてください。
ファサードにはもう1つ、パリ市が付けた銘板があります。「ニコラス・フラメルと妻ペレネルの家。夫妻の慈善の設立を記念して、パリ市は1900年に1407年の銘文を修復した」という内容で、この家が600年にわたって街に守られてきたことが分かります。
現在はレストラン「オーベルジュ・ニコラス・フラメル」
建物の中では、レストラン「オーベルジュ・ニコラス・フラメル」が営業しています。
シェフのアラン・ジェアムが2007年に引き継ぎ、2021年に改装、2022年にはミシュランガイドの1つ星を獲得しました。ランチは38ユーロから、ディナーのコースは「ペレネル」68ユーロ、「錬金術師」98ユーロ、「シグナチュール」128ユーロなど(2026年11月、公式サイト確認)。12歳以下向けには、その名も「Menu Harry Potter」(25ユーロ)という子ども用メニューまで用意されています。
人気店のため、食事をしたい場合は公式サイトからの事前予約がおすすめです。建物内部の石造りの空間で食事ができるのは、ここならではの体験です。
実際に食事してきました|レストラン訪問レポ
2026年9月、ランチの時間に予約をして、オーベルジュ・ニコラス・フラメルで実際に食事をしてきました。2人で訪れて、コース「錬金術師」(98ユーロ)を注文しました。前菜やメインは、アラカルトの中から好みのものを選ぶことができました。
この日にいただいたのは、こちらの5品です。
- 前菜:野生キノコのタルト(ヘーゼルナッツのプラリネとパセリのクーリ添え)
- 前菜:燻製ウナギのグラッセ(グリルしたリーキ、ブラウンバター、ケッパー、フィンガーライム)
- メイン:ヒラメ(ターボット)のフィレ(黒米ヴェーネレのリゾット、サーモンの卵をのせたブールブラン、金柑)
- デザート:「ニコラス・フラメル」のグラン・マルニエ・スフレ(マダガスカル産バニラのアイスクリーム添え)
- デザート:レモンのブランマンジェ(アーモンドのクラクラン添え)
店内の様子
店内は石壁と木の梁が残る落ち着いた空間で、キッチンの壁には「NICOLAS FLAMEL 1407」の文字と、シェフのアラン・ジェアムの言葉が大きく書かれています。「鉛を金に変えることが彼の夢だった。食事を感動に変えることが私の夢だ」という一文で、錬金術師の家で料理を出す店らしい演出です。
カウンターには、英語の『賢者の石の理論と実践(Theory and Practice of the Philosopher's Stone)』をはじめ、フラメルに関する書籍が何冊も置かれていました。ハリー・ポッターの世界観を直接うたうような装飾ではありませんが、フラメルという人物そのものへのリスペクトが店の隅々に感じられます。
メニューと料理
ランチのフォーミュラは、その日の前菜とメイン、またはメインとデザートの2品で38ユーロ、3品で48ユーロ(月〜土、12:00〜14:00)。
ディナーにも使えるコースは、アラカルトから前菜・メイン・デザートを選ぶ「ペレネル」68ユーロ、シェフおまかせ5品の「錬金術師」98ユーロ、7品の「シグナチュール」128ユーロの3種類です。ワインのペアリング(3杯、水つき)は60ユーロでした(2026年9月、現地のメニューで確認)。
アラカルトには、ラングスティーヌ(ヨーロッパアカザエビ)のラビオリ(26ユーロ)や、12ヶ月熟成のコンテチーズを詰めた鶏のシュプレーム(34ユーロ)などが並びます。そしてデザートには、その名も「ニコラス・フラメル」というグラン・マルニエのスフレ(18ユーロ、マダガスカル産バニラのアイスクリーム添え)がありました。賢者の石の製作者の名前を冠したデザートは、ファンなら素通りできません。
子ども用メニューには「Menu Harry Potter」(25ユーロ、12歳まで、メインとデザート)もありました。公式コラボではないはずですが、この名前が堂々とメニューに載っているところに、パリの人々にとってもフラメルとハリー・ポッターが地続きなのだなと感じます。
ワインは、料理にあわせておすすめのものを紹介してくれます。この日はプロヴァンスのロゼをいただきました。
予約は必須と考えたほうがよい人気ぶりでした。600年前の石造りの家の中で、フラメルの名を冠したコースを食べる体験は、パリのファンタビめぐりの中でも特別な思い出になります。
パリのファンタビゆかりの地と組み合わせて
フラメルの家があるマレ地区を起点に、パリ市内のファンタビゆかりのスポットを巡るのがおすすめです。
フラメル自身も物語のクライマックスで登場するペール・ラシェーズ墓地、フランス魔法省の入り口のモデルとなったフュルステンベルグ広場、魔法省の内装の着想源とされるグラン・パレ、サーカス・アルカヌスの本拠地として描かれたオペラ座ガルニエ宮など、見どころは市内各所に散らばっています。
- ペール・ラシェーズ墓地(レストレンジ家の墓と集会の舞台)
- フュルステンベルグ広場(フランス魔法省の入り口)
- グラン・パレ(フランス魔法省のモデルのひとつ)
- オペラ座 ガルニエ宮(サーカス・アルカヌスゆかりの地)
まとめ
ニコラス・フラメルの家は、賢者の石の製作者として知られる実在の人物が1407年に建てた、パリ最古の石造りの家です。
映画の撮影地ではありませんが、『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』でフラメルの自宅があるとされたモンモランシー通りにそのまま残る、作中の世界と現実が重なる場所です。
外観の銘文を眺めるだけでも価値がありますが、レストランで食事をすれば600年前の建物の中まで体験できます。パリでファンタビの世界をたどる旅の起点に、ぜひ立ち寄ってみてください。
基本情報
| 仏名 | Maison de Nicolas Flamel |
| 住所 | 51 Rue de Montmorency, 75003 Paris(パリ3区、マレ地区) |
| 営業時間 | 外観の見学は自由。レストランは月〜土 12:00〜14:00、19:00〜21:30/日曜定休(2026年11月確認) |
| 料金 | 外観の見学は無料。レストランのランチは38ユーロから、コースは68ユーロから(2026年11月確認) |
| アクセス | メトロ11号線 Rambuteau(ランビュトー)駅から徒歩約5分。Arts et Métiers(アール・エ・メティエ)駅(3・11号線)からも徒歩圏内 |
| 登場作品 | 『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』(作中の自宅がある通りとして登場)。原作『ハリー・ポッターと賢者の石』では名前と業績が語られる |
| 公式HP | auberge.nicolas-flamel.fr(レストラン) |