アルバス・ダンブルドアは、なぜ誰よりも早くヴォルデモート卿の不死の核心である分霊箱(ホークラックス)の存在とその複数性にたどり着けたのでしょうか?
その鍵は、若きトム・リドルの特異な才能と闇への執着の観察、トム・リドルの日記という最初の物証、ホラス・スラグホーン教授の記憶、そしてホグワーツ創設者にまつわる遺物へのヴォルデモートの偏愛にありました。
この記事では、ダンブルドアがヴォルデモートの不死の謎を解き明かし、数々の“仮説”を“確信”へと昇華させていった経緯を徹底解説します。
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【第4回】ハリーはなぜ死ななかったのか?分霊箱と“選ばれし者”の真相を解く
Contents
トム・リドルの闇の魔術への「異様な関心」|最初の疑念
ダンブルドアがトム・リドルの魂のあり方に最初に疑念を抱いたのは、彼がホグワーツの生徒だった頃まで遡ります。
リドルは並外れた魔法の才能を示す一方で、他者への共感の欠如、規則を巧みに利用する傾向、そして何よりも「死」に対する異常な恐怖と「不死」への強い執着を見せていました。ダンブルドアは、リドルがサラザール・スリザリンの後継者であることを誇示し、ホグワーツの秘密や闇の魔術に深い関心を寄せていることにも気づいていました。
ホグワーツ卒業後、輝かしいキャリアが約束されていたにも関わらず、リドルは「ボージン・アンド・バークス」という妖しげな店で働き始めます。これは、強力な闇の魔術の品々や、後に分霊箱の器となる可能性のある歴史的遺物に触れる機会を彼に与えました。
その後、リドルは一度姿をくらまし、再びダンブルドアの前に現れた際には、その容貌も雰囲気も大きく変貌していました。ホグワーツの闇の魔術に対する防衛術の教職を求めてきたヴォルデモート卿は、かつてのハンサムなトム・リドルの面影はなく、人間離れした姿になっていました。
ダンブルドア「彼の顔つきは、まるで蛇のようだった。白蝋のような顔に、目は赤く、裂け目のような鼻孔…かつてのハンサムなトム・リドルではなかった。」
ー『ハリー・ポッターと謎のプリンス』の第20章「ヴォルデモート卿の頼み」
この非人間的な変貌を目の当たりにしたダンブルドアは、「トム・リドルの魂が、何らかの形で損なわれているのではないか」と疑いを持ち始めます。
トム・リドルの日記の破壊|最初の物証
ダンブルドアの疑念を具体的な形にした最初の大きな出来事は、ハリー・ポッターが2年生の時にトム・リドルの日記をバジリスクの牙で破壊したことです。
この日記は、50年前に秘密の部屋を開き、マートルを殺害した学生時代のリドルの記憶と魂の一部を宿したものでした。 この一件により、ダンブルドアはヴォルデモートが自身の魂を分割し、それを物体に隠すという禁断の魔法、「分霊箱」を実際に作成したという確信に近いものを得ました。
これは、ヴォルデモートの不死への執着が、単なる強力な魔法の使用を超えた、魂そのものを冒涜する領域に達していることを示唆していました。
スラグホーンの記憶と「7つに魂を分ける」計画|決定的証拠
ヴォルデモートが複数の分霊箱を作成したという仮説を確固たるものにしたのは、ダンブルドアが元同僚である魔法薬学のホラス・スラグホーン教授から、改ざんされる前の完全な記憶を回収したことでした。
ダンブルドアはハリーの協力を得て、粘り強くスラグホーンに接触し、ついにその記憶の全容を知ります。
その記憶の中で、若きトム・リドルはスラグホーンに対し、分霊箱の概念について、そして特に「魂を七つに分けることは可能か」「七は最も強力な魔法数ではないか」と、極めて具体的かつ不穏当な質問を投げかけていました。
トム・リドル「魂を七つに引き裂くというのはどうでしょう?例えば、七――最も強力な魔法数ですが、七が良いのではありますまいか、先生?」
ホラス・スラグホーン「マーリンの髭よ、トム!七つ!正気の沙汰ではない!一つの魂を殺すだけでも十分に悪い…魂全体を引き裂くなど…それは冒涜じゃ」
ーJ.K.ローリング著『ハリー・ポッターと謎のプリンス』第23章「分霊箱」
このスラグホーンの記憶こそ、ヴォルデモートが一つではなく「複数」、しかも魔法的に強力とされる「七」という数字にこだわって分霊箱を作成しようとしていたことを示す、決定的な証拠となりました。
ファン「スラグホーンの完全な記憶は、ダンブルドアが分霊箱を理解する上でどれほど重要でしたか?」
J.K.ローリング「あの記憶(スラグホーンの)は決定的でした。なぜなら、それがヴォルデモートが一つだけでなく、より多く、特に七つの分霊箱を目指していたことを裏付けたからです。」
ーJ.K. Rowling, Online Chat Transcript, Bloomsbury, 30 July 2007.(Accessed via accio-quote、2025/5/15)
ヴォルデモートの歪んだ自己愛と執着|ダンブルドアの洞察
スラグホーンの記憶から「複数の分霊箱」、そして「七」という数へのこだわりという情報を得たダンブルドアは、次にトム・リドルの性格、価値観、そして彼が抱える歪んだ自己愛と誇大妄想から、分霊箱の器としてどのような品物が選ばれる可能性が高いかを推理しました。
リドルは常に自身を特別な存在と見なし、偉大な魔法使いや歴史的価値のあるもの、特にホグワーツの創設者に関連する伝説的な遺物に強い執着を示していました。
ダンブルドアは、ヴォルデモートが自身の魂という「貴重なもの」を託すにふさわしいと考え、自身の偉大さと結びつけようとするであろう品々に注目しました。 具体的には、サラザール・スリザリンのロケット、ヘルガ・ハッフルパフのカップ、ロウェナ・レイブンクローの髪飾りなどが候補として浮かび上がりました。
これらはすべてホグワーツ創設者に関連する品であり、ヴォルデモートが自身の魂を偉大な歴史と結びつけ、その不死性をさらに強固なものにしようとする彼の選民意識と自己顕示欲を反映していると考えられたのです。
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【第3回】ヴォルデモートの分霊箱一覧!いつ、どこで、誰が、どう破壊した?時系列まとめ
ゴーントの指輪の発見と破壊|仮説から確信へ
ダンブルドアの仮説が揺るぎない確信へと変わった決定的な出来事は、ハリーが6年生になる直前の夏休み期間のことです。ダンブルドア自身がヴォルデモートの母方の祖父であるマールヴォロ・ゴーントの廃屋から指輪を発見し、それが分霊箱であることを突き止め、破壊を試みたのです。
この指輪は、スリザリンの血を引くゴーント家の重要な遺品であると同時に、偶然にも「死の秘宝」の一つである「蘇りの石」がはめ込まれていました(ヴォルデモート自身は石の真の力には気づいていなかった可能性が高いです)。

ダンブルドアは指輪にかけられた強力な呪いによって右手に致命的な傷を負いながらも、グリフィンドールの剣で指輪(分霊箱)を破壊しました。
実際に発見した分霊箱、その破壊に伴う犠牲は、ダンブルドアにヴォルデモートの計画の邪悪さと危険性を改めて認識させ、「ヴォルデモートは自らの魂を七つに分けたに違いない」という結論に至ったのです。
予期せぬ7番目の分霊箱|ハリー・ポッター
ダンブルドアは、ヴォルデモートが意図して作成したであろう6つの分霊箱(トム・リドルの日記、ゴーントの指輪、スリザリンのロケット、ハッフルパフのカップ、レイブンクローの髪飾り、そして蛇のナギニ)の存在を推測しました。
しかし、ダンブルドアの洞察はさらに深く、最も衝撃的な可能性にも到達していました。
それは、ヴォルデモートが赤ん坊のハリー・ポッターを殺そうとしたあの夜、死の呪いが跳ね返った際にヴォルデモート自身の魂が不安定なほどに引き裂かれ、その一部が意図せずハリーの魂に付着し、ハリー自身が7つ目の分霊箱となってしまったという事実です。
この事実にいつダンブルドアが明確に気づいたかは定かではありませんが、『謎のプリンス』の物語の終わりまでにはほぼ確信しており、これがヴォルデモートを最終的に滅ぼすための鍵であり、同時にハリー・ポッターの過酷な運命を決定づける悲劇的な要素であることを深く理解していました。

まとめ|ダンブルドアの洞察力と論理が導いた真実
アルバス・ダンブルドアがヴォルデモート卿の分霊箱という最大の秘密にたどり着けたのは、単なる幸運や偶然ではありませんでした。それは以下の要素が複雑に絡み合った結果です。
ポイント
- 若きトム・リドルの特異な性格、才能、そして闇の魔術への異常なまでの関心と死への恐怖に対する長年の観察。
- ハリー・ポッターによるトム・リドルの日記の破壊という、最初の分霊箱の実例との遭遇。
- ヴォルデモートの人間離れした変貌と、その魂の損傷への深い洞察。
- スラグホーン教授の改ざんされた記憶を入手し、「魂の複数分割(特に七つ)」という核心的な情報を得たこと。
- ヴォルデモートの歪んだ価値観と自己愛を深く理解し、分霊箱の器として選ばれる可能性の高い遺物の種類を的確に推理したこと。
- マールヴォロ・ゴーントの指輪という実際の分霊箱を発見・分析し、自らの仮説を確固たるものにした行動力と、その際に払った大きな犠牲。
- そして、ハリー・ポッター自身が意図せぬ分霊箱であるという、最も困難で悲劇的な真実への到達。
これらの情報を繋ぎ合わせ、「複数の分霊箱の作成」というヴォルデモートの最大の秘密を、ダンブルドアはその類稀なる知性と洞察力、そしてハリーの助けを借りて見抜きました。彼のこの発見と理解なくして、その後のヴォルデモートとの戦いはあり得ず、ハリー・ポッターの物語における光の側の最大の武器の一つとなったのです。
次回の【第6回】では、視点を変えてヴォルデモートの側に立ちます。「分霊箱にされた物の“選ばれ方”とは?」をテーマに、なぜあのカップが、なぜナギニが分霊箱として選ばれたのか、その選択に込められたヴォルデモートの魔法的・心理的な意味を徹底考察します。ぜひご覧ください!
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【第6回】ハリーはなぜ分霊箱になった?「分霊箱」全7種の謎と選ばれた理由を徹底解説!
【参考】
J.K.ローリング著 岡部宏之他訳『ハリー・ポッターと秘密の部屋』静山社
J.K.ローリング著 松岡佑子訳『ハリー・ポッターと謎のプリンス』静山社
J.K.ローリング著 松岡佑子訳『ハリー・ポッターと死の秘宝』静山社
J.K. Rowling, Online Chat Transcript, Bloomsbury, 30 July 2007. (Accessed via accio-quote.org, 2025/05/18)
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