ヴォルデモートが不死を求めて魂を分け入れた7つの分霊箱。
トム・リドルの日記、マールヴォロ・ゴーントの指輪、スリザリンのロケットーーこれらはなぜ選ばれたのでしょうか?
単なる偶然ではなく、そこにはヴォルデモートの歪んだ信念、自己顕示欲などが色濃く反映されています。
この記事では、それぞれの分霊箱に込められた意味、作成の経緯について、わかりやすく解説していきます。
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【第5回】ダンブルドアはなぜ分霊箱に気づいたのか? ヴォルデモート「分霊箱」の伏線
Contents
分霊箱とは?
分霊箱(ホークラックス/Horcrux)とは、魔法使いが自らの魂の一部を体外の物に隠し、肉体が滅んでも魂の一部が生き続けることで不死を可能にする、闇の魔術の中でも特に邪悪なものです。
分霊箱作成の儀式
魂を裂く禁断の魔法 分霊箱を作るには、他者を殺害するという究極の悪行によって魂を引き裂き、その断片を特定の物に封じ込める必要があります。この行為は魂を不安定にし、人間性を著しく損なうとされています。
なぜ「7つ」にこだわったのか?|強力な魔法数
ヴォルデモートは、最も強力な魔法数とされる「7」にこだわり、自らの魂を7つに分割することを目指しました(本体の魂と6つの分霊箱で合計7つ)。
これは彼の自己を神格化し、不死性をより確実なものにしようとする歪んだ野望の表れでした。
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【第2回】分霊箱はなぜ7つ?ヴォルデモートの動機と過去に迫る
トム・リドルの日記|若き日の才能の記録
この日記帳は、トム・マールヴォロ・リドル(若き日のヴォルデモート)がホグワーツ在学中の16歳の時に作成した最初の分霊箱です。
彼は、ホグワーツ城内で起きた「嘆きのマートル」ことマートル・エリザベス・ウォーレンの死を利用して、この分霊箱を完成させました。
日記には彼の若き日の記憶と魂の断片が色濃く残っていました。
日記に封じられたトム・リドルの記憶と悪意
この日記は、ヴォルデモートにとって自身の類稀なる才能を証明する最初の記念碑であり、他者を意のままに操るという彼の本質を保存する器でした。
J.K.ローリングは、この日記が特に危険だった理由について次のように述べています。
そう思います。それは非常に強力な分霊箱だったと思います。そして、言ったように、最初のものでした。
彼がそれを作った時、魂がかなり無傷な状態だったという意味で、彼はおそらく最も力が強かったでしょう
ーJ.K. Rowling, Online Chat Transcript, Bloomsbury, 30 July 2007, 筆者訳(Accessed via accio-quote、2025/5/15)
嘆きのマートルの死と最初の魂の分割
トム・リドルは、スリザリンの秘密の部屋を開き、バジリスクを操ってマートルを殺害。この行為によって魂を裂き、日記を分霊箱としました。
後にこの日記はルシウス・マルフォイに託され、彼の策略によってジニー・ウィーズリーの手に渡り、ホグワーツで再び騒動を引き起こしました。
マールヴォロ・ゴーントの指輪|血統への執着
この指輪は、ヴォルデモートの母方の祖父マールヴォロ・ゴーントが代々受け継いできたもので、ペベレル家の紋章が刻まれていました。
それはスリザリンの血を引くゴーント家の遺産であると同時に、偶然にも三つの「死の秘宝」の一つである「蘇りの石」がはめ込まれたものでした。
ペベレル家の紋章と「蘇りの石」の偶然
ヴォルデモートは、この指輪が「蘇りの石」であることや、「死の秘宝」の真の力には気づいていませんでした。
しかし、ペベレル家という古い純血の家系と、スリザリンに繋がる祖先の遺物であるという点に強い象徴性を見出し、分霊箱として選びました。J.K.ローリング氏も以下のように言及しています。
彼は(指輪に蘇りの石が入っていることを)知りませんでした。
彼はペベレル家との繋がりに固執しており、その指輪がゴーント家の家宝でありペベレル家の家宝であるから重要だと考えていました。彼は石については知りませんでした。
ーJ.K. Rowling, Online Chat Transcript, Bloomsbury, 30 July 2007, 筆者訳(Accessed via accio-quote、2025/5/15)
父と祖父母殺害と血筋へのプライドが生んだ分霊箱
ヴォルデモートは、ホグワーツ卒業後、リトル・ハングル トンで父トム・リドル・シニアと父方の祖父母を殺害し、この指輪を分霊箱にしました。
彼にとってこの指輪は、自身が軽蔑していたマグル(非魔法族)の父方の家系を抹殺し、純血の魔法使いとしてのアイデンティティを確立する象徴であり、同時にスリザリンとペベレル家の血を引くという歪んだプライドを満たすものでした。

スリザリンのロケット|純血の証明
このロケットは、ヴォルデモートの母方の祖先であり、ホグワーツ創設者の一人であるサラザール・スリザリンが所有していたものです。
彼の母メローピー・ゴーントが家宝として受け継ぎ、困窮の末にカラクタカス・バークに安値で売却。その後、裕福な収集家ヘプジバ・スミスが所有していましたが、トム・リドルが彼女を殺害し、奪い取りました。
彼にとってこのロケットは、貧しく屈辱的な最期を迎えた母メローピーやゴーント家への複雑な感情を抱きつつも、「自分こそがスリザリンの正統な後継者である」という血統への強烈なプライドを象徴するものでした。
なぜロケットだったのか?創設者の遺物と血筋の証明
ヴォルデモートがこのロケットを選んだのは、それが歴史的価値の高いサラザール・スリザリンの遺物であり、強力な魔法が込められている可能性を秘めていたからです。
さらに重要なのは、このロケットが彼自身のルーツであるスリザリンの血筋を直接的に証明する証と見なされたことでした。
彼が重視した魔法界の歴史的価値と血統の正当性、その二つを兼ね備えたロケットは、彼にとって魂の器として特別な意味を持ったと考えられます。彼はヘプジバ・スミスを殺害することでこのロケットを分霊箱にしました。
ハッフルパフのカップ|ホグワーツの征服欲
ハッフルパフのカップは、忠誠と公正を重んじた、ホグワーツ創設者の一人であるヘルガ・ハッフルパフの遺物です。
ヴォルデモートは、これもまたヘプジバ・スミスからスリザリンのロケットと共に盗み出しました。
征服欲の象徴
彼にとって、このカップは単なる古い魔法道具ではありません。
「偉大なるホグワーツの象徴的な品を自分の魂の一部として所有する」という、彼の歪んだ征服欲を投影するアイテムとなったと解釈できます。
彼はトロフィーを集めるのが好きでした。彼は自身の力の象徴を好んだのです。
創設者たちの品々は彼にとって二重の意味を持っていました。一つはホグワーツとの繋がりです。彼にとってホグワーツは最初の真の家であり、彼が真に自分自身を見出した場所でした。そしてもう一つは創設者たち自身との繋がりです。
ーJ.K. Rowling, Online Chat Transcript, Bloomsbury, 30 July 2007, 筆者訳(Accessed via accio-quote、2025/5/15)
ロケットと共に奪われたホグワーツの至宝
ヴォルデモートは、自らの才能が開花した場所であり、同時に支配すべき対象でもあるホグワーツに強い執着を見せていました。
このカップも、そうした彼のコレクション欲とホグワーツへの執着を満たすものであり、ホグワーツ創設者ゆかりの品を手中に収めることで、ホグワーツそのものを精神的に支配下に置こうとする彼の願望の表れと見ることもできるでしょう。
ヘプジバ・スミス殺害時に、ロケットと同時に分霊箱にしたか、あるいは別の機会に別の殺害を利用したかについては明確な記述はありませんが、ヘプジバ殺害が利用されたと考えるのが自然です。
レイブンクローの髪飾り|失われた知恵の独占と自己顕示欲
ロウェナ・レイブンクローの失われた髪飾り(ティアラ)は、身に着けた者の知恵を高めるとされています。
ヴォルデモートはホグワーツ在学中に、ロウェナの娘であるヘレナ・レイブンクロー(灰色のレディ)からその隠し場所を聞き出し、卒業後にアルバニアの森で発見しました。
灰色のレディから聞き出した秘密とアルバニアでの発見
彼にとってこの髪飾りは、失われた古代魔法界の遺物を自らの手で「再発見」したという達成感と、その知恵すらも支配下に置くという万能感の象徴となりました。
知性への渇望と歴史的遺物の支配
この髪飾りを選んだ理由には、誰も見つけられなかった伝説の品を発見したことで、自らを歴史上の偉大な魔法使いすら超える存在と見なす彼の傲慢な思想が反映されていると解釈できます。
さらに、髪飾りが象徴するレイブンクローの偉大な「知性」をも手中に収め、自らの力の一部としたいという、彼の飽くなき支配欲も見て取れます。彼はアルバニアの農夫を殺害し、この髪飾りを分霊箱にしました。
ナギニ
ナギニは、ヴォルデモートが晩年に意図して作成した最後の分霊箱です。
バーサ・ジョーキンズ殺害と最後の意図的な分霊箱
ナギニを分霊箱にしたのは、ヴォルデモートが力を大幅に失い、アルバニアの森で弱体化していた時期(『炎のゴブレット』の出来事の少し前)とされています。
この時期、彼は魂をさらに分割することへの躊躇いを失っており、最も信頼でき、常に傍に置ける存在としてナギニを選んだと考えられます。
魔法省の役人バーサ・ジョーキンズの殺害が、ナギニを分霊箱にするために利用されたとされています。
なぜ生きた分霊箱?蛇との特別な繋がり
ヴォルデモートはパーセルマウス(蛇語を話す者)であり、蛇に対して特別な親近感を持っていました。
J.K.ローリングはヴォルデモートとナギニの関係性について次のように述べています。
ヴォルデモートはナギニに特別な親近感を持っていました。彼女は、彼が何らかの愛情(それを愛情と呼べるならですが)を抱いているように見えた数少ない生き物の一つでした。
彼は彼女を近くに置きたがり、彼女をかなり支配しているように見えました。彼は確かにパーセルタングで彼女とコミュニケーションを取っていました。
ーJ.K. Rowling, Online Chat Transcript, Bloomsbury, 30 July 2007, 筆者訳(Accessed via accio-quote、2025/5/15)
生きた存在を分霊箱にすることは魂をさらに不安定にするリスクを伴いますが、彼はそのリスクを承知の上で、常に自分の傍に置き、守護させ、時には攻撃の手段ともなるナギニの忠誠心と実用性、そして彼なりの特別な絆を優先したと解釈できます。
ハリー・ポッター|意図せぬ分霊箱、最大の誤算
ハリー・ポッターは、ヴォルデモートが意図して選んだわけではない、唯一の例外的な分霊箱です。
1981年10月31日、ヴォルデモートが赤子のハリーを殺そうとした際、リリー・ポッターの自己犠牲による愛の守りが発動し、死の呪文「アバダ・ケダブラ」が跳ね返りました。
リリーの愛の守りと跳ね返った死の呪い
死の呪文が跳ね返った衝撃で、ヴォルデモートの既に不安定だった魂の一部が裂け、その場にいた唯一の生き残りであるハリーに意図せず宿ってしまったのです。
ヴォルデモート自身は、ハリーが自身の分霊箱の一つであることを最後まで気づいていませんでした。
ヴォルデモートが気づかなかった自身の弱点
ハリーが分霊箱となったのは、ヴォルデモートの計算を超えた古代魔法「愛の護り」の力と、度重なる魂の分割でもろくなっていた自身の魂が引き起こした、全くの事故でした。
皮肉なことに、ヴォルデモートはハリーを「自分を滅ぼしうる存在」として予言に基づき自らマークし、結果的に彼を自身の不死の計画における最大の弱点、そして宿命の敵としてしまうという、物語の根幹を成す大きな誤算を犯したのです。

まとめ|分霊箱はヴォルデモートの歪んだ魂の鏡
ヴォルデモートが分霊箱として選んだ品々は、単に魂を安全に保管するための容器ではありませんでした。
それらは彼の自己愛、血統への執着、ホグワーツへの屈折した思い、支配欲、そして不死への渇望といった、彼の深層心理を映し出す鏡であったと考えることができます。
分霊箱の選択に共通するテーマ|誇り、執着、そして恐怖
創設者の遺物や自身のルーツに関わる品を選ぶことで、彼は自らの偉大さを誇示し、歴史に名を刻もうとしました。しかし、その選択は同時に、彼の不安定な自己評価や、他者との正常な絆を築けない孤独さをも示唆しています。
不死を求めた男の悲劇的な結末
J.K.ローリング氏の発言や原作の描写を通して見えてくるのは、分霊箱という存在が、ヴォルデモートがいかに自分自身を「神」として保存しようと試みたか、そのおぞましくも悲しい試みの痕跡そのものであるということです。
不死を追求するあまり、彼は人間性を失い、最も恐れていた「死」へと自ら近づいていったのです。分霊箱の破壊が彼の破滅に繋がったように、彼の選択そのものが、彼の最大の弱点となっていたのです。
次回の第7回では、さらに深くヴォルデモートの心の内奥に迫ります。
「分霊箱が語るヴォルデモートの深層心理」をテーマに、全ての分霊箱に共通して見られる特徴や、その選択から垣間見える彼の複雑な心理を考察。
そして、彼が最も理解できず、最も恐れた「愛」について、解説します。ぜひご覧ください!
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【第7回】分霊箱とは何だったのか?愛を知らぬヴォルデモートの悲しい過去と末路
【参考】
J.K. Rowling, Online Chat Transcript, Bloomsbury, 30 July 2007. (Accessed via accio-quote.org, May 15, 2025).
ローリング, J.K. 『ハリー・ポッターと秘密の部屋』松岡佑子訳、静山社
ローリング, J.K. 『ハリー・ポッターと謎のプリンス』松岡佑子訳、静山社
ローリング, J.K. 『ハリー・ポッターと死の秘宝』松岡佑子訳、静山社
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