―ヴォルデモートが選んだ“不死”の道、その代償とは何だったのか?
魂を傷つけるには、殺すこと——つまり殺人しかないんだ。そして、それによって魂は引き裂かれる
―スラグホーン(『ハリー・ポッターと謎のプリンス』第23章)
この記事では、ヴォルデモートが追い求めた不死の代償、魂の本質、そして分霊箱という禁術の背景を、原作とJ.K.ローリングのインタビューをもとに徹底的に解説します。
ハリー・ポッターの世界をより深く理解するための鍵となる分霊箱について掘り下げていきましょう。
Contents
分霊箱とは?その基本的な定義と目的
「分霊箱(Horcrux)」とは、魔法使いが自らの魂の一部を引き裂き、特定の物体や生き物に封じ込めることで、“死”を回避するための極めて高度で危険な闇の魔術です。
魂を引き裂く禁断の魔法
通常、魔法使いの魂は一つの完全な状態として存在し、死後も形を変えて存在し続けると考えられています。
しかし、分霊箱は、その魂を物理的に切り離し、別の「器」に保管するという、魔法界の常識を覆す禁断の行為です。
不死を目的とした極限の手段
分霊箱を作る最大の目的は、「死」から逃れることです。
例え自身の肉体が滅ぼされても、魂の断片が分霊箱の中に残っている限り、その魔法使いは完全には死なない、つまり不死となります。
いずれ肉体を再生させ、復活することが可能になるのです。ヴォルデモート卿がこの魔法に固執したのは、まさにこの不死の力を手に入れるためでした。
魂を引き裂く恐ろしい作成方法
魂という、自身の核となるべきものを引き裂き、分霊箱を作り出すには、想像を絶するほどの代償が必要です。
その具体的な方法は、原作でも詳細には明かされていませんが、いくつかの重要な条件が示唆されています。
分霊箱作成に必須の「殺人」という代償
分霊箱を作るためには「殺人」が必須であるとされています。
J.K.ローリングによれば、他者の命を奪う行為によって魂に決定的な傷がつき、その傷を利用することで自身の魂の一部を切り離すことが可能になるとされています。
具体的な儀式や呪文
魂を引き裂いた後、どのようにしてそれを物体に封じ込めるのか、具体的な儀式や呪文については、原作中でも詳しくは描かれていません。
ホラス・スラグホーン教授が「言葉にすることすら忌まわしい」と語るように、魂を裂く行為に加えて、特定の呪文や闇の儀式を伴うと考えられています。

なぜ分霊箱は禁じられた魔法なのか?その恐ろしい理由
分霊箱は単に強力な闇の魔法というだけではなく、魔法界全体で最も恐れられ、手を出してはならない「禁忌」とされています。
その理由は、魂という魔法使いにとって最も根源的で神聖なものに手を加える、人間性そのものの破壊を意味する行為だからです。
魂そのものを傷つける行為
分霊箱を作るということは、自分の魂を引き裂くという行為です。
魂がバラバラになることは、自分自身の根幹を破壊することを意味し、それは回復が極めて困難な、取り返しのつかない損傷をもたらします。
これは、自己破壊に等しい行為です。
倫理と道徳に反する罪
作成に必ず「殺人」を伴うため、取り返しのつかない行為が伴います。
分霊箱は魔法界の基本的な倫理観や、生命の尊厳といった道徳に完全に反している、非人道的な行為です。
魔法界での扱い|秘匿された魔法
あまりに非人道的かつ危険であるため、魔法省やホグワーツの正規の教育課程では、決して教えられることのない魔法です。
ごく一部の闇の魔法使いだけが知る、徹底的に秘匿された魔法なのです。
魂とは不可分であるべきだ。裂かれることは、それ自体が異常なんだよ
― アルバス・ダンブルドア
偉大な魔法使いダンブルドアも、分霊箱の異常性、そして魂を裂くことの恐ろしさを強く語っています。
このように、分霊箱は魂という神聖な領域を侵し、倫理を踏みにじる、魔法界で最も恐れられるべき禁断の魔法なのです。
分霊箱がもたらした代償|ヴォルデモートの見た目と精神の変化
分霊箱によって死を逃れたヴォルデモートですが、魂を何度も引き裂いたことによる代償は、計り知れないほど大きなものでした。
その結果、彼の体も精神も、人間からかけ離れた姿へと崩壊していったのです。
分霊箱を持つことによるヴォルデモートの変化を見ていきましょう。
ヘビのような顔に…|分霊箱がもたらした見た目の代償
魂が損なわれた影響は、まず彼の見た目に色濃く現れました。
クィレル教授の後頭部などに霊体として寄生していた頃は、青白く弱々しいながらも、既に人間離れした薄気味悪い様相を呈していました。
ピーター・ペティグリューの魔法で肉体を完全に再生してからは、その変化がさらに決定的なものとなります。
肌はチョークのように青白く痩せこけ、人間の特徴であった鼻は完全に失われ、蛇のように潰れた形になり、目には赤い光が宿るなど、およそ人間とは思えない恐ろしい異形の顔つきとなったのです。
声も高く冷たい、感情を感じさせない非人間的なものへと変化しました。
感情を失い孤独へ…|分霊箱がもたらした精神的な崩壊
精神面においても深刻な影響が見られました。
魂が損なわれたことで、他者への共感や愛情といった人間らしい感情は完全に失われていました。
さらに、友情や信頼といった「繋がり」を一切否定し、それを弱さであるとみなすようになったのです。
感情の制御も難しくなり、些細なことで激しい怒りを爆発させたり、常に疑心暗鬼に陥ったりするなど、その精神は徹底的に歪んでいきました。
このように、分霊箱はヴォルデモートを不死にはしましたが、その代償として彼から人間としての見た目も心も奪い去り、孤独で歪んだ存在へと変えてしまったのです。
分霊箱の破壊方法とは?
分霊箱は、非常に強力な闇の魔術が施されているため、通常の魔法や物理的な攻撃では破壊することができません。
魂そのものに直接作用するような、特別な性質を持った強力な力が必要となります。
物語の中で、このヴォルデモートの分霊箱を破壊するために使われた主な特別な力やアイテムを見ていきましょう。
魂に作用する毒|バジリスクの毒
魔法生物の中でも極めて危険なバジリスクの毒は、単に肉体を蝕むだけでなく、魂にまで影響を及ぼすと考えられている強力な物質です。
分霊箱に封じられた魂の断片をも滅ぼす性質を持っており、実際にいくつかの分霊箱の破壊に用いられました。
バジリスクの力を宿した剣|グリフィンドールの剣
ホグワーツの創設者の一人、ゴドリック・グリフィンドール卿の遺品であるこの剣は、ゴブリン製であり、魔法的な力を帯びています。
特に、バジリスクを倒した際にその毒を吸収したことで、分霊箱を破壊する力を獲得しました。バジリスクの毒と同様に、魂に作用する性質を持つに至った特別なアイテムです。

全てを焼き尽くす禁断の炎|悪魔の炎
悪魔の炎は、追尾し全てを焼き尽くす強力な闇の魔法です。
物質だけでなく、魂の断片も消滅させる数少ない力を持つため、分霊箱の破壊に絶大な効果がありました。ただし、制御が非常に難しく危険な魔法です。
これらのように、単なる強力さだけでなく、魂に作用する特別な性質を持つアイテムや魔法だけが、ヴォルデモートの分霊箱という強固な器を打ち破る鍵となりました。
それぞれの分霊箱は、どのように発見され、破壊されたのか? その全貌は、特集第3回で徹底解説します。ぜひそちらも合わせてお読みください。
まとめ|分霊箱の代償
第1回となるこの記事では、分霊箱が「魂を分裂させて、不死を得るための禁断の魔法」であり、その作成には殺人が伴うこと、そして魂を傷つけ、倫理に反する極めて危険な魔法であることを解説しました。
分霊箱は単に死を回避する強力なツールではありません。それは、自身の魂と人間性を引き換えにする、取り返しのつかない代償を孕んでいます。

分霊箱が物語の核心にどう絡むか、この記事を読んで興味を持った方は、ぜひ原作や映画で振り返ってみてください。
次回の第2回記事では、この恐ろしい分霊箱に、ヴォルデモートがなぜそこまで固執したのか?彼の内面に迫り、分霊箱作成の深い動機を探っていきます。
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